北アイルランド留学日記

2020年10月3日、コロナ禍のなかで渡航して、語学留学をした記録です。

波乱の月曜日

 朝一の早口の女性教員から、衝撃のお知らせが届きました。担任の先生(?)が、個人的な事情*1で明日からのレッスンを担当できなくなったとのこと。ええええ、やっとオンライン2週目で慣れてくるかと思いきや、またもや変更?!まだ、誰がこのクラスを担当するのかも決まっていないと宣告されました。これまで先生と密にやりとりをして課題を進めてきた私にしてみれば大ショックです。もちろん、先生のほうが気の毒なのですが、私はやや混乱気味。

 そのまま、授業が始まります。今日はリサーチトピックについて。私は最初に当てられたのですが、開口一番に「トピックが広すぎる」と言われます。私は「ええ、だから、こういうふうに絞って行って」と返しますが、「それでも広すぎる」の一点張り。

「いやでも、私はこういう資料を使う予定で、底本にするのはこの本で……」

「面白いテーマだけど、もっとトピックを絞らないと、こんな課題は扱えない。たった1000words以内で書くのだから」

「でも、前の先生とはもうこのトピックでいくと合意していたし、もっと長く書きたいならそれでいいと言われたし……」

 大声で早口でまくし立てる先生に、一歩も引かずに「いやでも、私はこのトピックを選びたいんだけど」とゆずらない私。そう、私は英語がろくに喋れなくても、全然、主張を曲げずに諦めないタイプなのです*2。先生も途中でうんざりして、「とにかく来週までリサーチトピックを絞ってきて!はい、次の人!」と打ち切り。

 私の顔が般若になったことは言うまでもありません。「なんだと〜〜〜!こっちが英語で上手く説明できないから打ち切られることになるなんて!あああ、もどかしい!!私の言ってることは日本語ならもっと論理的にクリアに言えるんだ。もっと英語が上手くなりたい!そのために来たというのに、なんというテイタラク!悔しい、これは悔しい!!」とPCの画面を見ながら悶えていました。

 でも、夜になって振り返ると、これは私の準備不足でもあります。きちんと自分の考えを整理して、いつでも英語で話せるようにしておかなければ、第二言語ではディフェンスできないのです。そのコツはわかっていて、「質疑応答テンプレート」を作ってしまうことです。これは日本語でも同じことです。「ああ、それ、よくある質問なんですよね(笑顔)」と振る舞うことで、自分の心の余裕も生まれます。日本語でだって、とっさの質問に答えられないことはよくあるのだから、これは経験値を積むしかありません。

 そんな私の葛藤はよそに、授業は終わり、wechatのグループで学生同士のお喋りが始まります。担任の先生(?)の交代についてどう思うのかを、みんな探り探り。なんにせよ、みんなが彼のITスキルの低さに不満を持っていたことはよくわかりました。顔に出さなかっただけなんですね。腹の中ではいろいろ考えているのだなあ。私は前の授業について、「もうこれ以上、先生と闘いたくない」とぼやくと、別の学生が「闘う必要ないだろう」となぐさめてくれます。もやもやして終わる昼休み。それにしても、このクラスの学生の大半は、先生が交代することも理解してなかったけど、大丈夫なのかな?数人の学生を除くと、先生の言ってることは、ほとんど理解できないまま授業が進んでいっている気がします。

 さすがに、もやもやが膨らんで午後は宿題が手につきませんでした。リサーチトピックを変更すれば、上手くいくことは自分でもわかっています。でも、私は広過ぎようが、抽象的だろうが、自分のトピックに挑戦することで英語の能力が上がると考えているし、譲りたくはありません。「できないと決めつけられるのは嫌だ」という反骨心と、「そんなふうに意固地になるのはよくないのでは」という謙虚な気持ちの間で、もやもやもやもや。悩んでいても仕方ないので、午前中の授業の女性教員に長いメッセージを送りました。

 すると、送って3秒後にすぐに先生から「私と通話で話したいですか?」と返信がありました。「はやっ」と思いつつ、「話したい」と返すと、ビデオ通話がかかってきました。そこで、私は自分の状況や実際に書こうとしているトピック、バックグランドや英語での発表の経験などを話しました。すると、先生は「うーん」と頭を抱えました。

「あなたは、明日から一番上のクラスに移ったほうがいい。face to faceでのクラスではないけど、とりあえず、そこに移りましょう。来週以降も、オンラインになるかも定かではないし、あなたは今のクラスに合っていない」

 私もその提案には「OK」と答えるしかありませんでした。先週の時点で、前の担任の先生(?)とも話し合っていたことですし、これまでの先生とのリサーチについての積み重ねや打ち合わせがご破算になるなら、移動はやむなしでしょう。しかも、移動先は私が一番、好きなGという先生だったのです。彼はオンラインの授業の準備がとてもしっかりしていて、クラスにいて不満を持ったことがありません。Gのクラスならば、と私も乗り気になりました。

 さらに、私が変更に次ぐ変更で、自分の英語の能力が伸びるのか不安なことや、対応できるか自信をなくしていることもメッセージに書いていたので、「そんなことはない」と力強く言われました。

「今の状況について、学生の皆さんに申し訳なく思っているけど、これはグローバルな危機で私たちにはどうしようもないし、予測もできないことになっている。でも、忘れないで欲しいのは、毎日、進歩しているということ。たとえロックダウンが起きても、オンラインで学習してるあなたは、前に進んでいるし、止まっていない。ここ数週間の価値ではなく、もっと長いスパンで考えて、あなたはいま、進歩し続けている」

 すごい勢いで先生が演説を始めるので、私も何となくそんな気になってきました。この先生はいつもパワフルで、同じことを三回くらい早口で言うのですが、あんまりにもストロングな主張なので、最初は「ふーん」と思っていてもそんな気がしてきます。アジテーターに向いているのでは?それはともかく、熱意溢れる説得で私も「まあなんとかなるか」という気持ちになってきました*3。そして、先生が「あなたはコミュニケーションを取ろうとしていて、とても良いこと。いつでもメッセージしてくれたらいいし、コールして頂戴」と言ってくれました。付き合いたてのカップルみたいな会話だなあ、と思いつつ、笑顔で「Thank you」と答えました。多少、私と先生の間に温度差はある気がしますが万事OKでしょう。

 そのあと、wechatで「クラス変わるかも」というと、Mが「なんでだよ?それは嬉しくない知らせだ」と言うので「レベル上げることになりそう」と答えると「cool!」とのリプライ。いま、若い人はなんでもcoolで返すのが流行ってるのかな。そのあと、メールを見ると、Mも同じ上のクラスに移動になってたので、「同じクラスだね、確認した?」と聞くと、また「cool!」と言ってました。

 何がともあれ波乱の月曜日も無事に終了。明日からは状況が良くなりますように。レベルが上のクラスだからちょっと緊張しつつ……。

*1:ご家族に不幸があったとのこと。一瞬、先生のCovid19感染もよぎりましたが、そうではなかったらしいです。

*2:昔、知人(帰国子女で英語が堪能)に冗談で「私、『英語が喋れなくても喧嘩に勝つ方法』って本が書けるかも」と言うと、「それ、ジョークになってない」とぼそりと言われました。

*3:ちょろい。私は頑固な割にちょろい。